本ページでは、圏における射について一歩踏み込んで性質を調べる。エピ射 (epimorphism) と モノ射 (monomorphism) は、それぞれ集合論での全射と単射の圏論的な対応物である。
エピ射とモノ射
定義 (エピ射・モノ射)
$\mathbf{C}$ を圏とする。
(1) $\mathbf{C}$ の射 $f : A \to B$ が モノ射 (monomorphism) であるのは、任意の $\mathbf{C}$ の射 $g, h : C \to A$ に対して、 $f \circ g = f \circ h$ ならば $g = h$ が成り立つときである。
(2) $\mathbf{C}$ の射 $f : A \to B$ がエピ射 (epimorphism) であるのは、任意の $\mathbf{C}$ の射 $g, h : B \to C$ に対して、 $g \circ f = h \circ f$ ならば $g = h$ が成り立つときである。
命題
圏 $\mathbf{Set}$ において、以下の (1) (2) が成り立つ:
- $\mathbf{Set}$ の射 $f$ がモノ射であるならば、$f$ は単射である。
- $\mathbf{Set}$ の射 $f$ が単射であるならば、$f$ はモノ射である。
したがって、集合圏 $\mathbf{Set}$ においては、モノ射の概念は単射と一致する。
(1) $f : A \to B$ はモノ射であると仮定し、$a, a' \in A$ を相異なる $A$ の要素とする。 $f$ が単射であることを示すには、$f(a) \neq f(a')$ を示せばよい。
いま、ただ1点からなる集合 $\{ * \}$ から $A$ への写像 $g, h : \{ * \} \to A$ を
により定義する。このとき $g \neq h$ であり、 $f$ はモノ射なので、$f \circ g \neq f \circ h$ である。したがって
より、$f(a) \neq f(a')$ を得る。
(2) $f : A \to B$ は単射であると仮定する。 いま、写像 $g, h : C \to A$ は $g \neq h$ を満たすとすると、ある $c \in C$ が存在して $g(c) \neq h(c)$ である。 $f$ は単射なので、さらに $f(g(c)) \neq f(h(c))$、すなわち $(f \circ g)(c) \neq (f \circ h)(c)$が成り立つ。したがって $f \circ g \neq f \circ h$ となるので、 $f$ はモノ射である。 $\Box$
命題
圏 $\mathbf{Set}$ において、以下の (1) (2) が成り立つ:
- $\mathbf{Set}$ の射 $f$ がエピ射であるならば、$f$ は全射である。
- $\mathbf{Set}$ の射 $f$ が全射であるならば、$f$ はエピ射である。
したがって、モノ射の場合と同様に、集合圏 $\mathbf{Set}$ においては、エピ射の概念は全射と一致する。
(1) $f : A \to B$ はエピ射であると仮定し、$b \in B$ を任意にとる。 $f$ が全射であることを示すには、$f(a) = b$ となる $a \in A$ が存在することを示せばよい。
いま、$B$ から2点集合 $\{ 0, 1 \}$ への写像 $g, h_{b} : B \to \{ 0, 1 \}$ を
により定義する。このとき $g(b) \neq h_{b}(b)$ なので $g \neq h_{b}$ であり、$f$ はエピ射なので、$g \circ f \neq h_{b} \circ f$ である。
ここで、もし $b \notin f(A)$(どの $a \in A$ についても $f(a) \neq b$ )であるとすれば、$g, h_{b}$ の定義からすべての $a \in A$ について $g(f(a)) = h_{b}(f(a)) =0$ となるが、 これは $g \circ f \neq h_{b} \circ f$ であることに反する。したがって、$f(a) = b$ となる $a \in A$ が存在しなければならない。
(2) $f : A \to B$ は全射であると仮定する。 いま、写像 $g, h : B \to C$ は $g \neq h$ を満たすとすると、ある $b \in B$ が存在して $g(b) \neq h(b)$ である。 $f$ は全射なので、この $b$ に対して $f(a) = b$ となる $a \in A$ が存在し、$g(f(a)) \neq h(f(a))$ すなわち $(g \circ f)(a) \neq (h \circ f)(a)$ となる。 したがって $g \circ f \neq h \circ f$ が成り立つので、 $f$ はエピ射である。$\Box$
同型射
定義 (同型射)
$\mathbf{C}$ を圏とする。 $\mathbf{C}$ の射 $f : A \to B$ が 同型射 (isomorphism) であるのは、ある射 $g : B \to A$ が $\mathbf{C}$ に存在して
の両方ともが成り立つときである。
この射 $g$ は、存在すれば必ず一意に定まる。そのためこの $g$ を 逆射 (inverse) ともいい、$f^{-1}$ とも書く。 また、同型射 $f$ が存在するとき、$A$ と $B$ は 同型 (isomorphic) であるといい、$A \cong B$ とも表す。
逆射は存在すれば一意であることを確認しておく。 そのためには、射 $g, g'$ がともに条件を満たすならば $g = g'$ となることを示せばよい。 実際、$g, g' : B \to A$ が、ともに $f : A \to B$ が同型射となるための条件($f$ と合成すると恒等射になる)を満たしているとすると、
より、$g = g'$ である。$\Box$
命題
任意の圏 $\mathbf{C}$ において、同型射はモノ射かつエピ射である。
$f : A \to B$ は同型射であるとし、$g, h : C \to A$ は $f \circ g = f \circ h$ を満たすとする。 仮定より $f$ には逆射 $f^{-1}$ が存在するので、$f^{-1}$ を左から合成すると
より、$g = h$ である。ゆえに $f$ はモノ射である。
同様に、$g, h : B \to C$ が $g \circ f = h \circ f$ を満たすとすると、$f^{-1}$ を右から合成することで $g = h$ を得るので、$f$ はエピ射である。 $\Box$
参考文献
- [1] Steve Awodey, 2010. Category Theory. Second Edition. Oxford University Press.